輸入事業者のための知財リスク基礎知識。 電気製品輸入に関する知的財産権の扱いについて正しく理解しよう
商標、意匠、特許といった知的財産権についてどの程度理解しているでしょうか。
知的財産にまつわるトラブルについて電気製品輸入.netにも輸入事業者さんからの問い合わせがありますが、製品を輸入してしまった後のご相談が多く取り得るオプションが非常に限られてしまいます。
知財リスクマネジメントの基本は輸入前にしっかり調査・確認を行うこと。
輸入事業者が注意すべき知的財産権の基礎知識を確認しましょう。
知らなかったでは済まない知的財産権の侵害
商標権、意匠権、特許権の3つが電気製品を輸入する際に輸入事業者が最も気をつけるべき知的財産権です。
この後個別に解説しますが、これら3つの知的財産権の侵害について共通して言えるのは「知らなかったでは済まされない」ということ。
これから輸入する製品が誰かの知的財産権を侵害していないことを確認した上で輸入業者は当該製品を輸入しているという前提の元に侵害の認定は行われます。
したがって、これらの知的財産権が侵害された場合は原則輸入事業者側に過失があったと判断されます (過失の推定規定: 商標法39条が準用する特許法103条)。
輸入した電気製品が誰かの商標権、意匠権、特許権を侵害していると判断された場合、それが意図してやったことでなくても輸入事業者が責任を負う事になるのです。
知的財産権を侵害するとどうなるか
1. 税関による輸入差止 [輸入前]
税関において輸入された製品が知的財産権を侵害していると認定された場合、原則没収・廃棄処分となり国内に持ち込むことはできません (輸入差止)。
実際には認定手続(※)開始から10日の間輸入者に反論する機会が与えられますが、この短期間で疑義を覆すだけの証拠を集めて提出することは難しいでしょう。
また仮に反論が受け入れられても税関は判断を裁判所に委ねるだけで、裁判所の判断が出るまで製品を国内に入れる事はできません。
※認定手続: 税関が知的財産を侵害している疑いのある貨物を発見した場合、輸入者・権利者の双方に通知の上知的財産権侵害有無の認定手続に入ります。
2. 裁判による輸入・販売の差止と損害賠償 [輸入後]
輸入後、権利者から知的財産権の侵害を訴えられた場合は裁判で争う事になります。
侵害があると結論が出た場合、輸入・販売の停止、侵害によって権利者が被った損害の賠償が請求される場合があります。
サプライヤーにその費用を請求することも可能ですが、その交渉は容易ではないケースが多いほとんどでしょう。
3. 刑事罰
製品が国内の流通経路に乗った後は、取り締まりの主体は警察となります。
警察が主体とはどういうことか。
そう、知的財産権の侵害は刑事罰の対象なのです。
例えば商標権を侵害した場合、侵害した者は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、またはこれらが併せて科されます (商標法78条)。
まずは商標を確認しよう
商標とは、他社の製品やサービスと区別をつけるために自社の製品やサービスにつけるマークの事を言い、ブランド名、ロゴ、会社名、製品名等、商標の機能を果たしていればこれら全て商標であるとみなされます。
最初から名前が付いている製品やサプライヤーのブランド名をそのまま使用する場合、またロゴマークが付いている場合なども日本に商標権者がいる可能性があります。
最低でもJ-PlatPatで同じ名前や類似したロゴがないことを確認してから輸入をするようにしましょう。
ところで商標権については先願主義「先に出願した人に権利がある」という考え方が採用されており、同一の商標に対して複数の申請があった場合「商標をいつから使っていたか」ではなく「いつ出願したか」の順番で権利が認められます。
これから輸入する製品の商標が取られてなくても安心してしまわず、その製品を守るために自社で商標を取得することも検討しましょう。
デザイン性の高い製品では意匠も確認
意匠とは、美しい外観デザインの事を指します。
薄型液晶TVの外観・サイクロン掃除機の外観といった製品全体のデザインや、また掃除機の先端部分・スチームモップの先端部分といった特徴的な「部分」のみの意匠も存在します。
見た目の良い製品・どこかで見たような製品を輸入する場合、意匠権者が日本にいる可能性がありますので注意が必要です。
部分意匠など意匠権の侵害についての判断は素人には難しいところがあります。
意匠権を侵害しそうな製品 (見た目が美しい、似たような製品を見たことがある) については、輸入前に専門家の判断を仰ぐべきでしょう。
最後に特許と実用新案について
電気製品に関する知的財産といえば、まず特許権が思い浮かぶと思います。
しかし、毎年膨大な量の特許・実用新案が申請される中、これから輸入する電気製品の技術が誰かの特許権や実用新案権を侵害しているかどうかを輸入事業者が事前に調査することは、その手間とコストを考えるとほぼ不可能な状況です。
製品の輸入前に輸入事業者が現実的に取り得る行動を以下にまとめます。
- 国内で流通している類似製品を入手し、既存製品の丸コピー商品でないことを確認
- サプライヤーが当該技術の特許を取得していないかを確認
- 信頼に値するサプライヤーであるかどうかよく考える
実際の取引では3番めの「信頼に値するサプライヤーであるかどうか」が非常に重要になるはずです。
こういった信頼関係は一朝一夕にできるものではありません。
しかし知財リスクの確認以外にも、PSE (電気用品安全法)の適合性に関する確認など輸入前にサプライヤーと確認すべきやり取りがいくつもあります。
そういったやり取りの中からそのサプライヤーが信頼に値する相手であるかどうか、少なからずわかってくるはずです。